画家・西田俊英は少年期から幻想的ともいえる心象表現と、対象を見つめて描く精緻な写実が融合した、独自の表現を模索してきた。モチーフを求め世界を旅し、つねに「ほんとうのもの」を渇望して自らを追い込んできた。そして、画家がたどり着いたのが、屋久島だ。「何も創らなくていい。原生の自然に抱かれたとき、“ほんとうの絵” が生まれる」と感じ、長大な畢生の作品を描きはじめる。(日曜美術館HPより)
巨樹と対峙する
日本画家・西田俊英(にしだ しゅんえい)は、70歳で武蔵野美術大学日本画学科教授を休職し屋久島へ移住しました。
新作に生かすインスピレーションを得るためです。
屋久島の大自然の中へ分け入り、目当ての巨樹「三穂野杉」を目指します。
岩を乗り越え、巨樹に到着。
「はじめまして」とあいさつをし、スケッチを始めました。
西田氏は、
「巨樹と対峙したとき、自分の弱さが分かる」と語っていました。
自分の弱さを自然が受け止めてくれる。
数千年の歴史を生きてきた巨樹を前にして、感情が動く。
涙を流しながらインタビューに答え、黙々とデッサンをする。
手が勝手に動いているんだそうです。
その様子は、巨樹と無言で、魂の対話をしているようでした。
自分の弱さと向き合ったのは、今回が初めてではありませんでした。
小学6年生の頃から絵を描き始め、絵描きの人生しか知らなかった西田氏は、デビューしてから数々の賞に入賞し続けました。
しかし、30代の初めに院展で落選。西田さんは、応募した作品を切り刻みました。
その後、山へ籠り、10日間山々をスケッチしたそうです。
ワンパターンな絵しか描けなくなった時。
そして、大学で若者の絵を見た時。
その都度、自分の弱さと向き合い、全身全霊で魂を込めて、絵を創作してきました。
自分の不甲斐なさを感じると同時に、まだまだ描けるという画家の使命のようなものがあったのだと思います。
屋久島の森の中、無心に鉛筆を走らせ、紙と鉛筆が擦れる音が響くシーンが印象的でした。
ギュンギュン引き込まれる引力
屋久島の真夜中、巨樹の前でデッサンをするシーンがありました。
頭に小さなヘッドライトを付けて、デッサンをする西田氏。
ありのままの自然と向き合うためには、自分自身もありのままでいなければならない。
自分自身が何を感じるのかを見届け合いという思いも、そこにはあるようでした。
自分の弱さを認め、受け入れることで見える世界がある。
外灯もない、月と星明かりだけの森の中。
次第に、眼が暗闇に慣れ、光が見えてくる。
今まで描いてきた「夜」は、全て嘘っぱちだったと振り返っていました。
無言で、デッサンを続ける西田氏が、
「こんな感情が、ぼくの中に残っていたんだ。」
とつぶやきました。
「ギュンギュン引き込まれる引力」と表現していたその力とは、
樹齢数千年の巨樹の生命力であり、
もっといい絵を描きたいとい西田氏の探究心でした。
屋久島の自然にどっぷりと浸り、苔や小さな草花から巨樹まで、その全ての命を受け止めようとしているようでした。
デッサンをする、手の動きの早さに驚かされました。
西田俊英の「B」
現在、創作している作品《不死鳥》(2022-23)。
その絵の全長は、44m!
最終的には70m~100mの大作になる予定だそうです。
写実と心象が入り混じった神秘的な絵画。
夜の森の中を、不死鳥が舞い、妖精のような小さな子どもが樹の根本に佇んでいます。
夜空には、カンバスを布で擦り表現した星が輝いています。
それは、まるで屋久島の森のなかに迷い込んでしまったような絵でした。
精緻に描かれた一本一本の巨樹。大きく盛り上がった根。
巨樹の表面の襞、苔。一枚一枚の葉。
巨樹を囲む湖。
ここまで精緻な絵が描けるのは、実際に屋久島の森で、自然の懐に抱かれてデッサンを繰り返したからだと感じました。
そして、夜空を羽ばたく大きな不死鳥。
羽の一本一本までがとても精緻に描き込まれています。
樹の根元には、妖精。
草木の一本一本までが生命力をもっているような絵。
徹底した自然の写実がベースにあるからこそ、幻想的な心象風景も、リアルに切実感をもって目の前に迫ってくるのだと感じました。
西田俊英について
西田俊英(にしだ しゅんえい)は、1953年三重県生まれの日本画家。
1977年に武蔵野美術大学日本画科卒業。
1983年に、第7回山種美術館賞展優秀賞受賞。
1984年に、東京セントラル美術館日本画大賞展大賞受賞。
その後も、数々の賞を受賞。
現在、武蔵野美術大学日本画学科教授・広島市立大学名誉教授。
◆ 放送日時
【日曜美術館】『“描く”という祈り 日本画家・西田俊英』/自分の弱さをさらけ出す/2023年10月29日
- 放送日時 10月29日(日) 午前9時 ~ 9時45分
- 再放送 11月5日(日) 午後8時 ~ 8時45分
- 放送局 NHK(Eテレ)
『西田俊英̶̶不死鳥』展の概要
- 会場 武蔵野美術大学 美術館
- 会期 2023年10月23日(月)~11月19日(日)
- 時間 11:00~19:00
- 休館日 水曜日
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