大阪中之島美術館で開催されている「テート美術館展 光 ターナー、印象派から現代へ」へ出かけてきました。テート美術館は、英国にある4つの国立美術館の連合体です。そのコレクションはおよそ7万7千点。本展では、その中から「光」をテーマにした作品約120点が選ばれています。そのうち、約100点は日本初出品! また、本展は中国、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを巡ってきた世界巡回展。日本は、その最終会場です。東京展を終え、大阪展がスタート。ゲルハルト・リヒターやマーク・ロスコなど、日本限定の出品もあります!
「テート美術館展」の開催概要
- 会場 大阪中之島美術館5F展示室
- 期間 2023年10月26日(木)~2024年1月14日(日)
- 開館時間 10:00~17:00(最終入場30分前)
- 休館日 月曜日
「テート美術館展」の入場料・グッズなど
- 一般 2,100円
- 高大生 1,500円
- 小中生 500円
- 図録 3,300円
- クリアファイル 450円
- トートバッグ 1,990円
- ロダス ビスケット缶 1,495円~
会場限定品がたくさんありましたー!
「テート美術館展」の混雑状況
混雑するのは、土日祝日の午後です。
当日券の購入に列ができています。
自動券売機3台とカウンターでの販売が一か所あるので、比較的スムーズに購入できます。
平日に行くことができる方は、ぜひ、午前中に。
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以下の作品は、表記の時間帯にのみ見ることができます。
リリアン・レイン《液体の反射》(no.58)
10:00~11:00 / 12:00~13:00 / 14:00~15:00 / 16:00~17:00
小さな暗い部屋に入って鑑賞します。
鑑賞時、列に並ぶことになります。
オラファー・エリアソン《黄色vs紫》(no.82)
10:30~11:30 / 12:30~13:30 / 14:30~15:30 / 16:30~17:00
こちらは、キネティックアートです。光の移り変わる様子が、不思議。動いている様子を、ぜひ見てください。
「テート美術館展」の展示構成
【Chapter1】精神的で崇高な光
18世紀の終わりころ、ロマン主義の画家たちは光と闇の効果を生かして、人の精神性・内面性や予測不可能な力を表現し、鑑賞者に畏怖の念を喚起させようと試みました。
ジョージ・リッチモンド《光の創造》(1826)は、神が光(太陽)を創造した瞬間を描いた作品です。本展覧会のトップバッターの作品に、選ばれました。
光は、善・純粋。暗闇=悪・破壊。このような象徴的なイメージが、絵画に盛り込まれています。筋骨隆々の神様が手を振り上げた瞬間に、太陽が生まれ、暗雲を割って光が差し込んできた瞬間が描写されています。めらめらと燃えるような太陽が、これから地上を覆おうとしている感じ。本展覧会のテーマ「光」にふさわしい選定だと感じました。
ジェイコブ・モーア《大洪水》(1787)も聖書の物語に基づいた作品です。画面はほぼ真っ暗なので、一瞬、何が描かれているのか分からないかもしれません。細部をじっくりと観察すると、人影や岩肌、水面が現れてきます。画面中心の奥側から差す光は微かですが、暗闇に灯された「希望」を表現しているように感じました。
【Chapter2】自然の光
移りゆく天候、空模様、光をとらえ、いかに絵画作品で表現するか。19世紀後半、多くの画家たちが光の効果を用いて、感情に訴える絵画を制作しました。
「光の画家」と呼ばれた英国のジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775–1851)やジョン・コンスタブル(1776–1837年)、ジョン・ブレット(1831–1902年)の作品、そして、草間彌生の作品などを見ることができます。
ターナーは光の画家と呼ばれました。
《湖に沈む夕日》(1840頃)は、ほとんど抽象画と言ってもいいくらいに具体的な形は何も描かれていません。画面全体が淡い黄色とオレンジ色に覆われています。夕日に包まれた湖の空気感を表現しようと追求していったら、このような絵画に行きついたのかなと思いました。画面左側のオレンジ色が濃いので、こっちが太陽の側なのかなと思います。湖と空との境目も分かりません。昼から夜へ向かう間の狭間の時間、夕日に包まれている安堵感を感じました。こちらの作品は、東京展のメインビジュアルに使用されていました。
ジョン・ブレット《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》(1871)は、とても美しい作品でした。これは、ぜひ会場で見て頂きたい作品の一つです。大阪展のメインビジュアルに使用されています。ブレッドは、実際に船に乗って、何度も航海に出て、海や海岸の風景を作品にしたそうです。雲の間より差し込むやわらかな光、きらきらと反射する海面。海面の青緑色がとても鮮やかで美しい。この作品が発表された当時は、この海面の色が鮮やかすぎると批判されたそうです。いつまでも眺めていたくなるような美しい作品でした。
【Chapter3】室内の光
都市の近代化がさらに進んだ19世紀末からは、室内における光と影の効果と、人物の描写へ関心が広がっていきました。
ウィリアム・ローゼンスタイン《母と子》(1903)は、椅子に座る母親が子を抱きかかえている絵です。右側から、室内へ柔らかい日差しが差し込み、子どもの顔を明るく照らしています。対照的に左側は暗く描かれていています。壁面には、船の模型や絵画、像が飾られていて、父親の存在を暗示しているのかもしれません。光の効果がとてもよく表れた作品でした。
ヴィルヘルム・ハマスホイ《室内》(1906)は、静かな室内風景を描いています。窓から光が差し込んでいますが、室内は暗く、静まり返った様子で、ちょっと冷たさも感じられます。薄暗い中、窓とドア、床に落ちる日差しの矩形が呼応していて、何もない空間だけども、当時の生活感が伝わってくる作品でした。
Chapter4 光の効果
1830年代に写真が発明されて以来、芸術家たちは、光に対して科学的な関心を抱き、実験的な芸術作品が生まれるようになりました。ワイマール(ドイツ)に開校した造形芸術学校「バウハウス」は、当時、最先端の視覚芸術表現の可能性を探究しました。
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775–1851)の作品からは、好奇心と実験精神で、光の反射や遠近法、陰影の強弱について探究してきたことがよく分かりました。
また、1930年代の写真機が発明されたばかりの頃の作品は、アーテーィストたちがこの機械に魅了され、様々な実験を繰り返してきたことが分かりました。光を写し取る不思議な暗箱へのわくわく感が伝わってきました。山脇巌(やまわき いわお)やハナヤ勘兵衛(はなや かんべえ)といった、日本人の作品が展示されていて驚きました。
Chapter5 色と光
ここでは、ヨーゼフ・アルバースやマーク・ロスコ、ゲルハルト・リヒター、バーネット・ニューマンの作品が一堂に会しています。もうこの部屋だけで大満足。感動!
バーネット・ニューマンの作品は、《アダム》(1951-1952)。国内でバーネット・ニューマンの作品が見ることのできる貴重な機会です。ニューマンの絵画の縦の縞模様は「光」を象徴していると言われています。こちらの作品は、タイトル通り「神・人間・祈り」といった要素も含まれているようでした。この展覧会には、ウィリアム・ブレイクの《アダムを裁く神》(1795)も展示されているので、二つの作品を比べながら鑑賞するのもおもしろいですよ。
マーク・ロスコの作品も、国内で収蔵している美術館は少ないため、この展覧会は貴重な機会です! マーク・ロスコの作品は、《黒の上の薄い赤》(1957)と《無題》(1969)です。《黒の上の薄い赤》(1957)は、二つの黒色の矩形が、赤色の上に浮かんでいる印象をうけました。赤は、燃えさかる炎のような感じ。ただ赤と黒の2色の色が描かれているだけなのに、なぜか胸にジーンを迫ってくるものがありました。やっぱり、ロスコの作品はいいなー。ニューマンの作品も黒と赤の二色で描かれています。この二つの作品を見比べながら楽しむことができますよ。
Chapter6 光の再構成
19世紀半ばに発明された電球は、20世紀に入ると人々の生活に浸透するとともに、産業の発展と多様化に伴い広告にも利用されるようになりました。こうした時代背景もあり、第二次世界大戦後のアーティストたちは光との新たな関係性を見出してきました。
ピーター・セッジリー《カラーサイクルⅢ》(1970)は、明滅する円形の光が様々な色に変化していく作品です。じっと見ていると眩暈がしてきそうでした。絵画と照明が呼応して、様々な色が生まれ、日常では見ることのできない視覚体験をすることができます。
オラファー・エリアソンの《黄色vs紫》(2003)は、天井から吊るされた黄色のディスクと照明投射器で構成されています。なぜか、壁に投影される光の色は、黄色から紫へと変化していきます。作品のタイトル通り、黄色vs紫。この空間に入ることで、より一層、エリアソンの「光」を楽しむことができます。つくづく、「色」とは、捉えどころのないものだと感じました。
Chapter7 広大な光
広大な宇宙規模の、自然な「光」を、人工的な「アート」で、いかに表現するのか。その実験的な試みの数々を鑑賞することができます。
ジェームス・タレルの作品は、《レイマー、ブルー》(1969)です。部屋に入ると、青い光に包まれます。宇宙空間を漂っているようでした。きれいな海の中を潜っていくような感じもしました。タレルは、自ら飛行機を操縦するそうで、その時の視覚体験が作品に反映されているそうです。できたら、この部屋で椅子に座ってボーっとしたかったー。
オラファー・エリアソン《星くずの素粒子》(2014)は、天井から吊るされた球状多面体がゆっくりと回転し、反射する光と影が壁面に映る美しい作品でした。巨大なミラーボールのようですが、その形は、金属のパイプで構成されていてとても複雑な形状です。地球のようにも見えるし、素粒子を拡大した模型のようにも見えました。
◆ メインビジュアル【大阪】
ジョン・ブレット《ドーセットシャーの崖から見るイギリス海峡》(1871)
海面の輝きがとても美しい作品です。
ちなみに、東京展のメインビジュアルは、
ジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー《湖に沈む夕日》(1840)
大阪展のチラシは、明るいポップな感じ。
東京展のチラシは、美術史を学ぶぞっていう感じで、対照的でした。
「テート美術館展」の巡回情報など
【東京】(閉幕)
- 会場 国立新美術館
- 会期 2023年7月12日(水)~10月2日(月)
本展は、2021年から中国・韓国・オーストラリア・ニュージーランド・日本と世界巡回している大規模展です。大阪展が最終会場になります!
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