【日曜美術館】『シン・芦雪伝』/躍動する線、自由闊達な筆捌き/2023年11月26日

いろいろ

江戸時代中期に京都で活躍した長沢芦雪。若冲や蕭白と共に、奇想の絵師の一人として人気が高まっている。奇抜で大胆な画風から、自分勝手で反抗的、恨みを買って毒殺されたなど、悪いうわさが伝えられてきた。しかし近年の研究から、師の教えを守り、高度な技と独自の発想で人を驚かせる絵を描き続けた、新しい人物像が見えてきた。今、大規模な展覧会が開かれている大阪中之島美術館を舞台に、傑作の数々が物語る真の芦雪像に迫る。(日曜美術館HPより)

白と黒の世界

芦雪の描く作品は、墨の濃淡と線だけで表現されています。

無量寺(和歌山県)には、《龍図》と《虎図》が収蔵されています。

《龍図》(1786)は、墨の濃淡やにじみで雨雲を表現しています。右前脚で暗雲を切り裂き、龍が顔を出している瞬間です。

描かれているのは、右前脚と頭部のみ。しかし、見る者には、暗雲に隠れている龍の胴体を想像させる障壁画です。

勢いのある筆捌きから、龍が今にも飛び出してきそうな感じがします。

《虎図》(1786)は、毛の模様を、墨の濃淡とにじみで表現しています。胴体から尾までの毛並み感が伝わってきます。

そして、前脚で着地する瞬間が描かれていて、こちらにむかって飛び込んでくるような感じがします。

ひげは、鋭く勢いのある筆致で描かれています。

龍も虎も、どこか憎めない愛嬌のある表情をしているところがおもしろいですね。

応挙は対象を子細に描きましたが、弟子の芦雪は、中心となる対象を詳細に描き、周辺は大雑把に描くという手法をよく使いました。

例えるなら、

応挙は、「スタジオで写真撮影をした感じ」。
芦雪は、「動画を切り取った感じ」。

と紹介されていて、なるほどーと感じました。

また、筆捌きだけではなく、構図も子細に検討されていることが分かります。

《布袋・雀・犬図》(江戸時代)では、犬や雀の視線がつながっていたり、《朝顔に蛙図襖》(1787)では、長く伸びた朝顔の蔓を、4面の襖を跨いで描き、余白を効果的に生かしたりしたいます。

長沢芦雪ってどんな人?

芦雪は、これまで破天荒な生き方をした人物として描かれてきました。

しかし、「それは本当だろうか?」という視点で、番組全体がまとめられていました。

応挙の替わりに和歌山へ派遣されたということは、それほどまでに師匠に期待され、将来を嘱望されていたと考えることができます。

また、和歌山南紀では、短期間に多数の作品を描きました。

このことからも、地元の人々に受け入れられ、信頼されていたからこそ、多くの仕事を依頼されたのだと考えることができます。

師匠を越えるため、独自の方法を模索していたその姿勢が評価されたのかもしれません。

芦雪は、誰もやっていないことにチャレンジし、人々を絵の世界で楽しませようとしてきました。

《方寸五百羅漢図》(1798)では、わずか3センチ四方の紙に、白像と釈迦、そして、500人の人物を詰め込んでいます。

また、《蕗図》(江戸時代)は実物の蕗に絵具を塗って紙に写し取り、たくさんの小さな蟻を精密に書き加えています。

これらの作品からも、長沢芦雪は「絵画」で人々を楽しませようと、様々な挑戦を重ねてきた人物であることが伝わってきます。

長沢芦雪の「B」

《西王母図》(1782)は、「西王母」と呼ばれる美しい女性を描いた作品です。髪の毛や目元は、とても繊細な線で描かれています。それとは対照的に、衣服や上部の木々は勢いのある筆致で描かれています。このコントラストが、芦雪らしい作品です。師匠の円山応挙が描いた女性像《西施浣紗図》(1773)と比べると、芦雪の作品の特徴がよりはっきりと分かります。

《群猿図》(1795)は、全部で9枚の襖で構成されています。墨の濃淡と刷毛捌きで猿の毛並みを生き生きと表現しています。そして、一匹一匹の猿の表情が愛らしい。歩いている猿や崖をよじ登っている猿、川(?)を泳いでいる猿もいます。猿たちが、会話をしながら、楽しく生活している様子が伝わってくる作品です。

《蹲る虎図》(1794)は、大勢の人々が見守る中、即興で描いた作品だと言われています。虎の毛並みは、勢いのある筆捌きで描き、その上から描いた線で縞模様を表現しています。髭は勢いのあるシュッとした線で描かれています。そして、表情は上目遣いで、愛嬌のある顔をしています。この絵を描く芦雪を、大勢の人々が見守っていたことを想像すると、わくわくしてきますね。

日曜美術館で、これまでの定説とは違った角度から、芦雪の人物像を学ぶことができました。

◆ 放送日時

【日曜美術館】『シン・芦雪伝』/2023年11月26日

  • 放送日時 11月26日(日) 午前9時 ~ 9時45分
  • 再放送 12月3日(日) 午後8時 ~ 8時45分
  • 放送局 NHK(Eテレ)

『長沢芦雪展』の概要

【九州】特別展 生誕270年 長沢芦雪 -若冲、応挙につづく天才画家-

  • 会場 九州国立博物館
  • 会期 2024年2月6日(火)~3月31日(日)
  • 時間 9:30~17:00(日・火~木)
    9:30~20:00(金・土)
  • 休館日 月曜日
  • 前期 2月6日(火)~3月3日(日)
  • 後期 3月5日(火)~3月31日(日)

本展覧会は、前期と後期で多くの作品の入れ替えがあります。目的の作品がある方は、日程にお気を付けください。

■■■閉幕■■■

【大阪】特別展 生誕270年 長沢芦雪 ー奇想の旅、天才絵師の全貌ー

  • 会場 大阪中之島美術館 4階展示室
  • 会期 2023年10月7日(土)~12月3日(日)
  • 時間 10:00~17:00
  • 休館日 月曜日

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