コロナ禍、ネットに色鮮やかなスイセンの絵を公開し「春が来ることを忘れないで」と、世界に向けてメッセージを発信したデイヴィッド・ホックニー(86)。60年以上に渡り探求と変貌を重ねながら、それまでの常識を打ち破る作品を生み出してきた。27年ぶりの大規模な展覧会を舞台に、初期の傑作から、コロナ禍にタブレット端末で制作した90mの大作まで、多彩な創作の秘密を読み解きながら、希望に満ちた芸術の神髄に迫る。(日曜美術館HPより)
デイヴィッド・ホックニーの「体験する絵画」
デイビッド・ホックニーは、絵画と鑑賞者の関係性を深める表現方法を、60年にわたり探究しきました。
描かれている対象と鑑賞者との距離をどれだけ縮められるか?
鑑賞者が、作品の中に入り込んでいるような感覚を得ることができているか?
今回の日曜美術館を見て、ホックニーは、鑑賞者に、目の前の絵画に夢中になってもらうための様々な工夫を凝らしてきたことが分かりました。
身近な空間や対象を描きながら、感動とメッセージを伝える。
身近な人、身の周りにあるモノを描くことを通して。
一人一人、一つ一つ。
それぞれに、「生命の喜び」があることを伝えているのだと感じました。
ホックニーにとって、「没入感」と「迫真性」が大切な理由
一般的に、美術館を訪れて、絵画の前で鑑賞する時間は数秒だと言われています。
しかし、ホックニーは様々な技法を駆使して、鑑賞者に、画面の隅々まで鑑賞してもらい、絵画に込めたメッセージを伝えようとしています。
「没入感」と「迫真性」を生むために、①多視点の導入、②作品中の人物の視線の交差、③作品の巨大化という方法を選択しました。
ピカソの絵画に影響を受けて以来、遠近法を越えて、多視点をどのように絵画に取り入れるのか試行錯誤してきたホックニー。
そして、生まれたのが、《ホテル・アカトラン》(1984)や《2つの椅子を行き過ぎて》(1984-86)でした。
様々な角度から見た視点で構成された絵画を前にして、鑑賞者は、画面の隅々にまで目を配ることになります。
「この絵画には何が描かれているのか?」という問いから、絵画に描かれた世界の体験が始まります。
また、人物の視線の交差により生まれる空間の探究は、主に「ダブルポートレイトシリーズ」で取り組まれました。
人物の視線、登場人物の視線は、鑑賞者の前で交差し、画面に広がりを与えます。
鑑賞者を見つめる視線もあれば、画面奥を見つめる視線もあります。
それらの視線の交差が画面に奥行きを与え、より、絵画を体験する「没入感」が生まれました。
巨大な作品たち!
また、「没入感」と「迫真性」を生むため、作品が徐々に巨大化していきました。
《ウォーター近郊の大きな木々またはポスト写真時代の戸外制作》(2007)は、50枚ものカンヴァスを組み合わせた作品です。
また、《春の到来イースト・ヨークシャー、ウォールゲート》(2011)は、32枚のカンヴァスを組み合わせています。
これらの作品の前に立つと、その空間の広がりに圧倒されます。
そして、《家の辺り》(2019)は、長さ90m!
歩きながら鑑賞する作品。それらは、まさに体験する絵画と言えます。
デイビッド・ホックニーの【美】
《花瓶と花》(1969)と《春の到来》(2020)。
これらの2つの作品は、デイビッド・ホックニー展を訪れて一番最初に目にする作品です。
2020年のコロナ禍に、「春が来ることを忘れないで」というメッセージを添えて、iPadで描いたラッパ水仙の絵を発表しました。
ラッパ水仙は1969年にも取り組んだモチーフでした。
それら二つの絵画を組み合わせることで生まれる、時間の流れと未来への希望。
寒くて暗く、しとしと雨が続く2月が終わり、ラッパ水仙の芽が出る3月。
イギリスでは、この鮮やかな黄色が、春を告げてくれるシンボルだそうです。
二つの絵画を対比することで、ホックニーが伝えたかったメッセージが、より鮮やかに伝わってきました。
白と黒のエッチングからiPadを用いた明るい色彩への変化も象徴的でした。そのこともまた、世界を明るく照らしたいというメッセージ性が伝わってきました。
◆ 放送日時
【日曜美術館】『そして、春は巡りくる デイビッド・ホックニーの芸術』
- 放送日時 9月24日(日) 午前9時 ~ 9時45分
- 再放送 10月1日(日) 午後8時 ~ 8時45分
- 放送局 NHK(Eテレ)
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