【日曜美術館ー棚田康司】『そして、樹(き)がひとと重なる 彫刻家・棚田康司』/樹が語る「生命の境界線」を彫る/2023年10月15日

いろいろ

彫刻家・棚田康司、54歳。一本の木から彫り出す少年少女などの人間像は、神秘的な存在感を放ち、今年、木彫界の最高峰「平櫛田中賞」を受賞した。棚田は人間の深い闇を感じさせる作品で若くして注目を浴びるが、壁にぶつかる。そして、模索の中からたどり着いたのが、日本古来の「一木造り」だった。この夏、棚田は新作に挑んだ。格差や戦争…分断が世界に広がる時代、そして木に宿る命と向き合いながら格闘する姿に密着した。(日曜美術館HPより)

【日曜美術館】棚田康司の創作過程

棚田康司の彫る人物像は、すらりとしていて、腕や脚も細く華奢な体形をしています。

しかし、その眼差しには生命が宿っているように感じられ、「人間」としての存在感が伝わってきます。

棚田康司は、樹にノミを入れる前に、長時間、その樹を眺めます。
樹と向き合い。
樹の中に眠っている形を探っていきます。

 

樹が決まったら、製材所でチェーンソーを用いて粗削りをします。

そして、およその形を切り出します。

その重さは、200~300Kg。

その樹を、車でアトリエに運びます。

アトリエで、約半年かけて作品が生まれます。

彫り進めながら絶えず、樹に語り掛け、形を探っていきます。

 

一木造りを始めたきっかけは、ベルリンに派遣されていた時の出来事がきっかけとなりました。

ある日、息子が通っている日本人学校の楠が伐採されることになりました。
伐採当日、子どもたちは、楠を前にして泣いていたそうです。
その光景をみた棚田は、伐採された楠から、家の形を切り出し子どもたち全員にプレゼントしました。
子どもたちや家族から、たいへん喜ばれたそうです。

その後、帰国。作風が変わりました。

【日曜美術館】棚田康司の境界線

世界には、様々な「境界線」があります。

国と国、人と人、大人と子供、性別…。

それらの境界線が分断を招き、トラブルや戦争につながっていく。

「境界線」は、棚田の作品の大切なテーマになっています。

樹の中に眠っていた「命」を彫りだし、人間の存在感を創り出す。

 

棚田は、彫刻を通して、木の生命を生かす方法を探っていきます。

これもまた、樹の中にあるべき「境界線」を探っているとも言えます。

 

今回の「日曜美術館」では、新作を彫る棚田の様子を、約5か月間を取材した内容でした。

10月の個展に向けて、2体の人物像を彫る過程は、とても興味深かったです。

とくに、最後の家庭で、「目」をどのように入れるのか、試行錯誤する姿はとてもスリリングでした。

 

新作は、縄跳びをしている人物像2体。

この縄もまた、「境界線」を象徴しています。

棚田は、「境界線」の幅が広がれば、多様性を受け入れることにつながっていくとも話していました。

この新作は、現在開催されている『第30回平櫛田中賞受賞記念展 棚田康司―線上に幅を 空間に愛を―』で見ることができます。

【日曜美術館】棚田康司の「B」

棚田が、樹を選ぶ際に大切にしていることは年輪

なるべく年輪の多い樹を選んでいるそうです。

そして、作品は、台座も含めて、一本の木から彫りだされています。

 

現在、伊丹市庁舎に2点の作品が展示されています。

これらの作品には、年輪に黒い線が入っています。

年輪に黒い線が残っている木は、彫刻作品には向きませんが、棚田はこの年輪をそのまま作品に残しました。

この木は、市庁舎が新築されるときに、伐採された楠です。

そして、黒い年輪は、阪神淡路大震災のときのものだと考えられます。

木は時間そのもの。

作品に込めた、棚田のメッセージが伝わってくるエピソードでした。

*****

番組内で紹介された彫刻「歴のトルソ 桜の少女」は伊丹市役所2F西側エレベーターホール、「ヴィオレ」は1F西側エレベーターホールにそれぞれ展示されています。

棚田康司について

棚田康司(たなだ こうじ)は1968年兵庫県生まれの彫刻家。

東京造形大学美術学部彫刻科卒業。東京藝術大学大学院美術研究科彫刻専攻修了。
大学院卒業後は、自分自身を題材にして創作活動を行う。
その後、創作活動に行き詰まり、文化庁芸術家在外研究員としてベルリンへ留学。

2001年ベルリンから帰国し、「一木造り」という日本古来の木彫技法で、少年少女の像を制作する。

2005年に「第8回岡本太郎記念現代芸術大賞」特別賞を受賞。

2023年に「第30回平櫛田中賞」を受賞。

◆ 放送日時

【日曜美術館】『そして、樹(き)がひとと重なる 彫刻家・棚田康司』

  • 放送日時 10月15日(日) 午前9時 ~ 9時45分
  • 再放送 10月22日(日) 午後8時 ~ 8時45分
  • 放送局 NHK(Eテレ)

『第30回平櫛田中賞受賞記念展 棚田康司―線上に幅を 空間に愛を―』の概要

  • 会場 井原市立平櫛田中(ひらくしでんちゅう)美術館(岡山県)
  • 会期 2023年10月6日(金)~11月26日(日)
  • 時間 9:00~17:00
  • 休館日 月曜日

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